認知症のお客様への接客対応を学んで「認知症サポーター」になろう

2020.12.12店舗の安全管理
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小売店や飲食店などの店舗には、日々数多くのお客様がいらっしゃいます。その中には、高齢者の方や認知症の方もいらっしゃるのではないでしょうか。

認知症について詳しく知らないために、店舗のスタッフが高齢者の行動を誤解してトラブルに発展するケースは少なくありません。スタッフ全員が正しい知識を持つことで認知症への理解を深め、高齢のお客様にベストな接客ができるようになりたいですね。

 

今回は、認知症の症状や店舗での対応の仕方をお伝えすると共に、認知症サポーターについて詳しくご紹介します。

 

高齢者の問題はますます深刻化している

内閣府「高齢社会白書(2020年版)」では、総人口に占める65歳以上の割合(高齢化率)は28.4%と発表されました。さらに、高齢者の認知症有病率は2012年から上昇し続けており、2025年には20%を超えることが予想されています。高齢化率と共に認知症有病率も年々アップし、我が国では下記のような問題が既に深刻化しています。

 

・高齢の夫婦だけの世帯が多くなる

・高齢の単身者世帯が多くなる

・認知症によるトラブルが増えている

 

高齢者だけの世帯では、認知症の症状が出ていてもそれに気が付くことができず、問題行動が放置されたままになることもあります。地域社会で高齢者を見守っていくためには、ひとりひとりが認知症への理解を深めていく必要があります。

 

認知症にはどんな症状があるのか

認知症とは、老化により脳の働きが「弱くなる」または「機能しなくなる」ことによって、記憶することや判断することが難しくなる病気です。認知症のお客様への対応を学ぶには、まず「認知症の典型的な症状」について知っておくことが大切です。

 

症状①「記憶ができなくなる」

認知症になると記憶の機能が働かなくなるので、ついさっき聞いたことを覚えていなかったり、自分が体験した出来事そのものを忘れてしまったりします。たとえば買い物では、前に購入したことを忘れて、同じものを繰り返し買ったりします。また、会話の途中で席を外して戻った時に、さっき話していた内容を忘れてしまいます。

 

認知症の記憶障害は「老化による物忘れ」と混同しやすいですが、この2つは異なります。見分け方の例を挙げると、朝食に何を食べたか忘れるのが老化、朝食を食べたこと自体を忘れるのが認知症の特徴です。

 

症状②「自分の状況がわからなくなる」

認知症が進んでくると、自分が今置かれている状況がわからなくなる「見当識障害」が見られるようになります。

 

【見当識障害の特徴】

・時間、年月日、季節など、今がいつなのかわからなくなる

・自宅がわからなくなるなど、場所が認識できなくなる

・相手が誰かわからなくなる

 

見当識障害の影響による「事故・行方不明・体調の悪化」など、高齢者の認知症問題は年々増加しています。

 

症状③「物事の理解や判断が難しくなる」

思考力が乏しくなり、2つ以上のことを関連づけて考えることができなくなります。さらに言語能力も低下するため、相手の言っていることがわからなくなり、不安になって心が乱れることも増えてきます。

 

症状④「以前できていたことができなくなる」

多くの能力が機能しなくなることによって、以前はできていたことが困難になります。どんなことができなくなるのか、一般的な例を挙げてみました。

 

・計算ができなくなる

・ルールを守れなくなる

・目的地へ行けなくなる

・機械の操作方法がわからなくなる

 

症状⑤「気持ちが不安定になる」

状況が理解できず、感情のコントロールができなくなるため、下記のような状態になることが多くなります。

 

【認知症による心理面の症状】

・感情の爆発(すぐに怒る、大声をあげる、暴力)

・不安(落ち着かない、怖がる、イライラする)

・抑うつ(自信を失う、面倒になる、やる気がなくなる)

・幻覚・妄想(人を疑う、強い被害者意識、徘徊)

 

認知症の高齢者は、その問題行動(症状)だけでなく、気持ちが不安定になることも加わってトラブルに発展しやすくなります。

 

認知症の方への「接客の心構え」とは

認知症の高齢者は、理解力や判断力が低下したとしても、うまくいかないことの悔しさや悲しみといった感情は根強く持っています。大声を出して怒っていても、実は「わけのわからない不安」で怯えていたりするのです。

 

小売店や飲食店などでは、認知症のお客様が来店した時のために、接客にあたっての心構えをスタッフへ周知徹底しておくと、ベストな対応ができるようになります。

 

優しい態度を心がけよう

スタッフの優しい態度は、認知症のお客様を安心させます。どんなことを意識すればいいのか、ポイントを挙げてみました。

 

【優しい態度とは】

・笑顔

・穏やかな口調

・聞こえるようにゆっくり話す

・目線を合わせる

・お客様の気持ちに寄り添う言葉選び

 

聴くことに徹しよう

まずは、お客様の話をじっくり聴くことです。お客様が話をしている途中でスタッフが話を遮ると、話の内容を忘れてしまうこともあります。ていねいに聴いてくれるスタッフには、お客様も心を許して話せるでしょう。

 

大事なことは、お客様の気持ちに共感し、決して否定しないことです。たとえ話のつじつまが合わなくても、一生懸命に話すお客様の話を「違います」「そうではありません」と否定するのはNGです。

 

認知症のお客様への接客「シーンごとの対応」

認知症のお客様には、どのように声をかけたらいいのでしょうか。想定できる3つのシーンをご紹介します。

 

シーン①「店内を長時間ウロウロ。または、ぼんやり立っている」

認知症のお客様の場合、自分が今どこにいるのかが分からなくなっている可能性があります。ここがお店の中であることが伝わるように「いらっしゃいませ」と丁寧に挨拶した後「お客様、今日は何をお探しですか」「お客様、お席はお決まりですか」と優しく声をかけ、本人が欲しい商品がある場所や空いている座席まで誘導します。口頭や指差しだけの指示は、さらに混乱する可能性があるので避けましょう。

 

シーン②「レジでの支払いがスムーズにいかない」

財布の中にあるお金をキャッシュトレイの上に出してもらい、お客様と一緒に数えながら「〇〇円ですので、これだけいただきます」と、金額分を受け取ります。後続のお客様は他のレジに分散させて、認知症の方にじっくり向き合えるようにします。

 

シーン③「お金を払わずに帰ろうとする」

「お客様、レジを通るのをお忘れではないでしょうか」と、優しい口調で声をかけ、レジへと案内します。お客様と顔なじみのレジ係員がいる場合は「レジ係の〇〇さんがお話ししたいと言っていますよ」と話しかけるのも良いでしょう。

支払いをしていないことを強調してしまうと、お客様は「万引きを疑われている」と思い、傷付いたり激昂したりする可能性があります。同じことを繰り返すお客様であっても、決して大きな声は出さず、笑顔で穏やかに誘導しましょう。

 

「認知症サポーター」になって接客力向上を目指そう

認知症のお客様への接客を学ぶなら、「認知症サポーター養成講座」の受講をおすすめします。

 

認知症サポーターとは

認知症サポーターは、認知症の基礎知識や対応の仕方を学び、高齢者が安心して暮らせるように応援する人のことです。全国で多くの認知症サポーターが養成され、2020年9月末現在では1,277万人以上が資格を持っています。

 

認知症サポーターになるのは、スーパー・デパート・小売業・金融機関・薬局など「高齢者と関わる機会の多い職業」が多く、社員を認知症サポーターとして育成することに力を入れている企業も増えています。

 

認知症サポーターになるには

自治体・企業・団体・学校などが主催する「認知症サポーター養成講座」を受講すると、修了の証として「オレンジリング」が与えられ、認知症サポーターとして認められます。誰でも受講することが可能で、受講費用はかかりません(企業・法人の研修として実施する場合はテキスト代等の実費負担が発生します)。

 

講座を受講するには、「〇〇市(自治体名)  認知症サポーター養成講座」などの検索ワードでインターネット検索をしてみると、開催日などの詳細を知ることができます。

 

認知症サポーターのメリット

認知症サポーターになると、どんなメリットがあるのでしょうか。小売店や飲食店のスタッフが受講することの価値を考えてみました。

 

  • 認知症のお客様に対する苦手意識が軽減する
  • 認知症の基礎知識があるという証明になる
  • 「認知症サポーターのいる店」としてアピールできる
  • スタッフ自身の家族が認知症になった時に役立つ
  • 転職活動時の自己アピールにできる
  • 地域の一員として「認知症対策」に関わることができる

 

①~③は店舗としてのメリットで、④~⑥はスタッフ自身のメリットです。店舗だけでなくスタッフ自身にもメリットがあることを事前に伝えることで、受講への意欲も高まります。

 

まとめ

認知症サポーター養成講座で学ぶことによって、高齢者を見る目が変わったことを実感する人も多いと言います。それは、正しい知識を得ることで認知症を心から理解し、思いやりをもって対応できるようになるからです。知ることは、歩み寄ることでもありますね。

 

認知症サポーターがいるお店は、お客様はもちろんご家族にとっても安心して利用できる優良店です。そんなお店がどんどん増えていけば、認知症の高齢者に優しい社会になります。誰もが安心してお買い物できるお店を目指して、認知症サポーター養成講座をスタッフの研修に取り入れてみてはいかがでしょうか。

高度な専門性と幅広い知識で商空間と住空間を演出

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タグ : 対応 認知症 接客 認知症サポーター
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