店内でのお客様転倒事故の慰謝料は?損害賠償請求の裁判事例

2020.03.09店舗の安全管理
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転倒したお客様

売場で多い事故の1つが、転倒事故。お客様が売場で転倒してケガをした場合、店側はどのような責任を問われるのでしょうか。慰謝料や損害賠償の請求はどれくらいになるのでしょうか。

今回は、実際の裁判事例を挙げながらご説明します。

店内での転倒事故により損害賠償が請求された事例

実際に店内で転倒事故が起こった際に、損害賠償が請求された例を見ていきましょう。中には多額の慰謝料を請求される事例もあります。

【裁判事例1】床のアイスに滑って転倒。損害賠償は約860万円

床に落ちたアイス

まず、2009年10月31日にショッピングセンターのアイスクリーム売場前の通路で起こった転倒事故の事例をご紹介します。

当時71歳の女性がショッピングカートを押しながら歩いていたところ、アイスクリーム売場前の通路に落ちていたアイスクリームで滑って転倒。右大腿骨と第二腰椎を骨折し、92日の入院治療と85日の通院治療を受けました。また、下肢の関節機能に障害も残りました。

女性は店舗が安全管理を怠ったことについての「不法行為責任(民法709条)」と、床が滑りやすい状態になっているのに放置したことについての「土地工作物責任(民法717条)」を問い、ショッピングセンターに約2,600万円の損害賠償を請求しました。

判決の結果、裁判所はショッピングセンターに約860万円の支払いを命じました。

【裁判事例2】飲食店の床の油で転倒。100万円で和解

続いて、2012年11月に飲食チェーン店の床で起こった転倒事故の事例をご紹介します。

当時40代の女性が家族5人で店を訪れたところ、店員の案内に従って席に向かったところほんの2、3歩進んだところで右足が滑り、左脚の膝を強打しました。すぐに病院に運ばれ診察を受けたところ、左膝を複雑骨折していることが判明し、動作に支障が出る後遺症が残りました。

店舗の床は以前からネットや口コミサイトなどで「よく滑る」といわれており、事故当時も床には油が付着していて滑りやすい状態だったと女性は主張し、店舗側の清掃や管理に問題があったとし約2,500万円の損害賠償を請求しました。

最終的には、店舗側が原告の女性に解決金100万円を支払うことで和解となりました。

【裁判事例3】雨天時にコンビニで転倒。損害賠償6,000万円を請求されるも棄却に

雨天時に道路を歩く人

2006年10月1日にコンビニ店内の通路で起こった転倒事故の事例をご紹介します。

当時40代の買い物客が、店内のパンコーナーと食品コーナーの間の通路を歩いていたところ転倒しました。この事故により下腿後面等の筋肉群等の軟組織の断裂・損傷の他、以前かかっていた脊椎の変性椎間板の状態悪化などの傷害を負いました。

転倒した買い物客は、店側が足ふきマットを設置しておらず、雨天時で通路が濡れていると分かっているにも関わらず来店客に慎重な歩行を促さなかったなどとして、店舗側が考慮すべき注意義務への違反を主張。さらに継続的な痛みや運動制限による苦痛や仕事への影響などを理由に、1,600万円の慰謝料を含む損害賠償6,000万円を請求しました。

しかし裁判の結果、実際には店舗出入り口の外と中にそれぞれ1枚ずつ足ふきマットが設置されており、店内の清掃も十分に行われていたと認められ、最終的に原告の損害賠償は棄却、原告の弁護費用もすべて自己負担となりました。

不法行為責任とは?

不法行為責任とは

不法行為責任が問われる代表的な例は、交通事故です。交通事故の加害者は、被害者の生命や身体、財産を害する事故を起こした行為について責任を問われ、損害賠償を負います。これは民法第709条に定められています。

【不法行為による損害賠償】
第七百九条  故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

不法行為責任が認められるには、その行為が「故意または過失による」と認められる必要があります。

今回ご紹介した3つの裁判事例では、「利用客が転倒した原因が、店側の過失によるものであったかどうか」が争点となります。

判決に至った理由

上記の判例では、どのようにして最終的な判決に至ったのでしょうか。詳しい理由を見ていきましょう。

【裁判事例1】アイスで滑ったのは店側の過失?本人の不注意?

ショッピングセンターの転倒事故の裁判では、以下の点が責任の根拠となりました。

①事故が起こったのはアイスクリーム売場付近の通路であり、アイスクリームを購入した客が食べ歩いてアイスクリームの一部を落とし、床が滑りやすくなることは予測できた。

②当日は一部のアイスクリームの割引セールが行われており、混雑することが予想できた。

①②の状況により、ショッピングセンターは、「売場付近に飲食スペースを設けて誘導する」「清掃委託を閉店時間まで延長する」「従業員による見回りを強化する」などの対策を行う義務を負っていたと判断されました。ですが、その義務を怠っていたことが明らかだったため、不法的行為責任が認められたのです。

とはいえ、上記の予測は転倒した女性本人にも可能です。そのため、女性も「売場前を歩行するときに足元を注意するという義務を怠った」という過失があります。ただし、「ショッピングカートを押していたという原因により床が見えにくかった」という状況も考慮して、女性の過失割合は20%であると判断されました。

【裁判事例2】店側に過失はなかった?

床を清掃する従業員

飲食チェーン店での転倒事故の裁判では、店側が以下の点を主張し「過失はない」と反論しました。

①店側は防滑性の素材を床材に使用していたこと

②店舗スタッフが毎日清掃していることに加え、月に1回は専門業者によるクリーニングを行っていたこと

③転倒が起きた場所はキッチンの油分が飛散するような場所ではないこと

上記の点から、原告女性の「床に油分があったために転倒した」という主張は説得力を持たず、最終的に和解金を支払うという結果に至りました。

【裁判事例3】安全性が欠如していたのは原告側

コンビニでの転倒事故の例では、以下が判決の理由となりました。

①当時店舗の出入り口付近には足ふきマットが2枚設置されており、来店時に可能な限り水や汚れを取り除けるよう配慮していたこと

②事故現場の売場には冷蔵ケースもなく、商品の性質上水滴がたまるような原因はなかった上、利用する客が少ないなどの理由から転倒場所の床が濡れていたとは考えられないこと

③雨天時には通常よりも滑りやすくなっていることを来店客側も認識しているはずであること

上記の理由から、店側に過失はなく、むしろ多少滑りやすくなっていることは来店客も理解しているはずで、通常の注意力をもってすれば転倒は防げたはずであると判断されました。その結果、最終的に原告の損害賠償は棄却されたのです。

まとめ

意欲的な従業員

店舗内には冷蔵・冷凍ケースがある売場や、出入り口付近など滑りやすくなる箇所がいくつもあります。特に雨天時には来店客によって靴についた雨や汚れが持ち込まれます。店内での転倒事故を防ぐためには、定期的な清掃の他、水や汚れに気が付いたらすぐに対処することが基本です。

店側の過失が認められれば慰謝料などの損害賠償請求へと発展しかねません。事故が起こらないよう、そして万が一事故が起こったときにも店側には非がないことを主張できるよう清掃は念入りに行いましょう。

店内での転倒事故を防ぐ方法については  こちらの記事  をご参照ください。

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タグ : 売場 損害賠償 転倒 事故対策
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